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東京地方裁判所八王子支部 昭和24年(ヨ)19号 判決 1949年5月13日

債権者

日本セメント労働組合西多摩支部

右代表者

支部長

債務者

日本セメント株式会祉

主文

債務者は別紙第一目録記載の第三者富增吉五郎外五百四十九名に対し夫々同目録各名下記載の金員を此の判決が債務者に送達された日の翌日から五日内に仮に支払うべし。

訴訟費用は債務者の負担とする。

申請の趣旨

債務者訴訟代理人は、債務者は別紙第二目録記載の富增吉五郎外五百四十九名に対し夫々同目録第三「支払を受けなかつた金額」の欄に記載する金額を支払うべしとの判決を求める。

事実

(一)、債務者会社は東京都千代田区丸ノ内に本社を有し、全国二十三個所に工場事業所を有し、西多摩工場はその一に属する。

別紙第二目録記載の富增吉五郎外五百四十九名は孰れも債務者会社西多摩工場の従業員であり、債務者から月給制又は準月給制による給与を受けるものであつて従来日本セメント西多摩工場労働組合と称する単位労働組合を組織し、且右組合は前記二十数個所の工場事業場で結成された各単位労働組合と共に日本セメント労働組合連合会を組織して居たものであるが、昭和二十四年二月十五日の右連合会の全国大会に於て右単位組合の組合員其他を構成員とする日本セメント労働組合と称する単一組合に改め西多摩工場にはその支部を設け、同工場従業員を以て右支部を構成することになり地域的の国体交渉等については支業長を以てその代表者としたものである。

(二)、これより先昭和二十三年十一月十五日から同月二十七日迄の間前記連合会は債務者との間に締結された労働協約に基いて中央協議会を開催し賃金スライドの件地域給是正に関する件其他に付協議をしたけれども不調に終つた。しかし同年十二月五日に至り右連合会の代表者と債務者との間に協議を再開し覚書を交換するに至つて一応紛争が解決するに至つたものである。右覚書に於て地域給に関しては債務者と連合会との奴方から夫々委員を挙げて早急に結論を出すことになつて居た。右覚書に基いて同月十六日地域給専門委員会を開催し、席上西多摩工場従業員に対しては従来支給されて居なかつた地域給を新たに一割支給すべき旨の組合側の要求について協議をしたけれども纏らす不調に終つた。

(三)、(イ)、一方に於て昭和二十三年十一月二十一日債務者の代理人である西多摩工場の工場長と西多摩工場労働組合との間に締結された休日労働に関する協定は同年十二月七日の期限を以て終了し翌八日以後は無協定の状態になつた。

従つて同月三十一日の歳末及び昭和二十四年一月一日乃至三日は前記協約第二十八条の原則に基き当然休日に該当するものであるが特に工場側の要望に応じてクレンマンの勤務を承認し工場の操業に支障なからしめるやうに協力した。

(ロ)、然るにその後も協約によつて休日と定められて居る日曜日たる一月十六日及び同日以後の各日曜日について休日労働に関する協定が締結されなかつた。

(ハ)、よつて組合は一月十三日に口頭を以て同月十六日の日曜日其他の祝祭日には協約の原則通り休日として就業しない旨を申入れ爾後右申入通り実行して来たものである。而して協約に定めた休日の休業は之を有給とする定であり、且つ賃金の計算期間は前月の二十一日からその月の二十日迄と定めてあるのに拘らず債務者は一月十六日に於ける賃金同年二月分の一月二十三日三十日、二月六日、十三日、二十日の五日分の賃金を所定期日(毎月二十八日)に支払をしなかつた。

(四)、同年三月分の賃金については債務者は組合員の生産実績が三十九パーセントに過ぎないと称して同月三十日右の割合に該当する賃金のみを支払ひ、残りの六十一パーセントに該当する分の支払を実施しなかつた。

(五)、従来の協約第七条によれば組合専従者に対しては一般の組合員と一切の給与等について不利益な取扱を為すことができないのに拘らず債務者は同年二月二日附で労働次官の通牒があつたことを理由にして専従者野中哲雄外三名に対する三月分の給与の支払を停止した。

(六)、以上第三乃至第五項によつて債務者が各組合に支払はなければならない賃金その他の給与額は別紙第二目録中「支払を受けなかつた金額」の欄記載の通りである。

(七)、以上債務者の不当な賃金不払の為専ら賃金を以て生計を維持する前記五百五十名の組合員並びにその家族は生活について著しい脅威を感ずるに至つて居る。而して債権者は債務者に対し協約に基いて組合員に対しその給与を誠実に履行すべきことを求める使命を有するものであるので前記不払賃金の支払の履行を求める本案の訴訟を提起せんとするものであるが、前述の如く組合員がその生活を脅かされ事態は急迫を告げて居るので賃金の仮払を求める為本件申請に及んだ次等であると述べ、

(八)、債務者の主張に対し、

(イ)、旧称日本セメント労働組合連合会が日本セメント労働組合となり、又日本セメント西多摩工場労働組合が日本セメント労働組合西多摩支部となつたのは単にその名称及び組織を変更したものに止まつて何等その実質に於ては変更のないものである。連合会が解散し新たに別個の単一組合が結成されたといふ債務者の主張は当らない。而して債務者たる支部は夫自体一定の組合員が結集しその代表者の定めがあるものであつて債務者と組合を構成する債務者会社の従業員との間に於ける労働条件等に関する局地的事項について団体交渉等独立の組合としての機能を有するものであるから、かゝる事項に関しては民事訴訟法第四十六条に所謂その名に於て訴へ又は訴へらるゝことを得る社団である。

(ロ)、債務者は日曜日の休業を目して争議行為であると主張するが右の事実は否認する。債務者主張の協約第二十八条の規定あることは之を認めるがこれに基いて日曜日、祝祭日等以外の日を債務者に於て休日と指定するには同第二十九条により債権者と協議し、なほ従業員の請求により代休を与へることを要するものである。然るに債務者より一月十六日以降の日曜日に関してはその就業の協議について何等の申入もない。

(ハ)、債務者は工場の生産実績が低下しそれが組合の怠業に起因すると主張するが右の事実も否認する。仮に多少生産実績の低下ありとするも債権者組合員の責に帰すべき事由に基くものではない。

(ニ)、組合専従者の給与の支払停止については総司令部渉外局発表にかゝる指令によれば、昭和二十四年二月二十四日から九十日の猶予が与へられて居り、この間別に協定ができない限り協約に従ひその支払を為すのが当然である。

と述べた。(疎明省略)

債務者訴訟代理人は債権者の申請は之を却下する訴訟費用は債権者の負担とするとの判決を求め、

(一)、本案前の主張として債権者は当事者能力を有しないものである。債権者主張の事実中第一項は認める。但し昭和二十四年二月十五日組合の全国大会に於て各工場事業場単位の組合及びその組合を構成とする連合会は解散し、新たに各工場並びに事業場の従業員の外馘首された旧従業員書記局員を以て直接組合員とする。日本セメント労働組合と称する単一組合を組織したものである。その代表者は中央執行委員長である従来の各工場事業場の従業員は右単一組合の一部である組合の支部員に過ぎないものであつて右支部は夫自体労働組合法により認められた独立の組合としての組織機能等を有せず、右単一組合は或ひは民事訴訟法第四十六条によつて形式的当事者能力を有すべきも支部にはそのやうな能力はない。

(二)、本案に入り第二項、第三項(イ)(ハ)第四項及び第五項の事実は認める。第三項(ロ)第六、七項は否認する。

(三)、西多摩工場に於ける休日制に関してはセメント製造なる事業の性質上、日曜日毎に一斉に休業をし、その操業を休止することを得ないものであるから特に協約第二十八条に於ても「休日は原則として次の通りとして有給とする。一、毎日曜日又は四週間を通じて四日の事業場所の定める日」と規定し西多摩工場に於てその都度工場側から休業すべき特定の職場及び人員並びにその年月日を指定する例であつて、特別の場合を除いては日曜日毎に一斉休業するといふが如きことは全然協定されたこともなく又実際に於ても左様な事例がなかつた。

(四)、会社が債権者主張の如く賃金の支払をしなかつたのはその支払を為すべき義務がないからである。即ち債権者組合は地域給の是正に関する中央協会に於て従来その改定はスライドベースの枠内で採択すべき協定があるのに拘らず、連合会は西多摩地区の地域給一割の枠外支給を要求し、その要求は全然協定を無視する不当なものであるけれども、会社側は七分五厘迄の枠外支給を認むる旨最大の譲歩をしたのに拘らず、連合会はその要求を譲らず不調になつたものである。然るに西多摩工場の従業員は右主張が容れられなかつたので、休日労働に関する協定の期限が経過して無協定になつたことに藉口して不当な争議方法として日曜一斉休業の波状的な二十四時間ストに突入したものである。協約第六十一条によれば中央協議会決裂の翌日から起算して三十日間は双方共一切の争議行為を行ふことを得ない旨の平和条項があつて、前述の昭和二十三年十二月五日覚書が作成された以後、未だ中央協議会は開催されて居ない。従つて組合は未だ争議権を獲得して居ないのに拘らず昭和二十四年一月十三日工場長に対し同月十六日からの一斉休業を実施するの申入を為する共に翌十四日闘争指令を発し、日曜日の就業を拒否して争議行為に入つたものであつて、債権者主張の生産実績の低下も日曜日の一斉罷業破損した廻転窯の修理を故意に遅らせる等の怠業行為に基くものである。而して罷業怠業中の賃金は労務の提供がないものであるから月給制の場合でも該当部分については之を支払ふべき義務がないものである。

尚専従者に対し会社から給料を支払ふべき旨の協約条項は労働組合法第二条第二項に違反する無効のものであるから、昭和二十四年二月二日附の労働次官通牒のあつたのを契機として三月分からその給与の支給を廃止したものである。

(五)、仮に債権者の組合員にその主張のやうな賃金請求の債権者があるにしてもその対象たる昭和二十四年一月十六日から同年三月二十日迄の賃金請求権の如きは民事訴訟法第七百六十条に所謂継続する権利関係に非ざるを以てかゝる請求権の保全の為の仮処分は之を許すべからざるものと信ずる。

尚本件仮処分によつて保全される請求権は金銭債権に過ぎないから結局金銭的補償を得ることによつてその目的を達し得べく同法第七百五十九条に所謂特別事情ある場合に該当するから同法第七百四十三条を準用し、債務者にその執行を免れる為供託すべき金銭を定める旨の判決を求める。

と述べた。(疎明省略)

理由

(一)、債権者の当事者能力につき按ずるに、債権者主張の第一項の事実は当事者間に争なきところであつて、債権者日本セメント労働組合西多摩支部は日本セメント労働組合と称する単一組合の一部に過ぎないけれども、成立に争ない甲第十二乃至十六号証、同第三十号証、乙第二十六号証及び証人上村洋治の証言並に債権者代表者野中哲雄本人訊問(第一回)の際のその供述を綜合すれば、債権者支部が西多摩工場の従業員を以てその構成員として結集し単一組合の規約中に支部の自主性を認め独自の規約を定めることを支部に委任して居ること。これに基き支部の規約が制定せられ、それによつて支部を代表し一切を統轄する権限ある代表者支部長が置かれていること、右支部長は西多摩工場に於ける賃金の支払その他の労働条件に関し債権者の代理人たる同工場の工場長と交渉していることが疏明されたと認める。以上の事実によれば債権者はその主張の通り民事訴訟法第四十六条による形式的当事者能力を有するものと解する。

(二)、休業した日曜日の給与の点につき考察するに、成立に争ない甲第二十八号証及乙第一号証によれば前記当事者間に争ない休日に関する原則の規定があるほか、債権者主張の如き同二十九条の条項の存在することの疏明を得たものと認める。尤も右協約は債務者とセメント労組合連合会との間に締結せられたことは当事者間に争ないところであつて、債務者は連合会の解散によりこれと同時に協約も亦当然に消滅したものであると主張するけれども、連合会が解散し新なる単一組合が結成せられたか否か、従つて該協約が消滅したか否かの判断はしばらく措き、右協約が効力を有する間に連合会を構成した各単位組合の組合員にして現在なお債務者会社の従業員たる者と債務者との間に於ては、その雇傭並に労働条件につき定められた条項に従うべき権利義務は現実に発生し協約に定められた有効期間は相互にこれに拘束せられるものと解すべきであり、その法律関係は其の後に至つて仮に連合会並に各単位組合が解散したとしても何等の影響を受くべき筋合ではない。成立に争のない甲第一号証及前記乙第一号証に依れば右協約に於てその有効期間は昭和二十四年五月三十一日迄と定めてあることは疏明せられたものと認める。従つて前記第二十八条、第二十九条に基く法律関係は現在もなお会社と従業員との間に存続するものである。而して前記第二十八条の原則的規定は必ずしも日曜日のみを以て有給休日としたものでなく、事業場に於て四 間を通じて四日の日曜日以外の適宜な日を有給休日と指定することができ、その場合には特に組合との協議を要しない趣旨であり、

前記第二十九条はこの場合には適用なく、特に事業場の指定なき場合には一週一回の日曜日が有給休日となるものと解するを相当とする。而して昭和二十四年一月十六日の日曜日に付ては、会社側からその日曜日を含む何年何月何日から何日迄の四週間を通じ特に四日の休日を指定し、一月十六日の日曜日に於ける出勤を命じたかに付ては債務者の全疏明方法によるもその疏明を得ないものと認める。而して昭和二十四年一月十六日の日曜日を特に出勤すべき旨の特別の指定があつたことについては何等の疏明がない。証人金子進一の証言に依れば当日少数の安全保護関係者が出勤したことは疏明せられたものと認むべく、其の他の従業員が全員休業したことは当事者間に争ないところであるが、これを以て債務者主張のように争議行為たる罷業とはいい得ない。一月二十三日以降一、二月中の各日曜日に同様全員休業したことは当事者間に争はないけれども、これ亦前同様争議行為と目することを得ない。尤も債務者は右各日曜日の休業を以て不当な争議行為であると主張し成立に争ない甲第四号証同第十号証乙第十号証の一、二、同第十四号証及び証人金子進一の証言を綜合すれば、組合側は昭和二十四年一月十三日に西多摩工場長に対し同月十六日の日曜日には一斉休業する旨の申入をなし、翌十四日闘争委員長名義を以て闘争指令を発したこと、会社は一月三十一日附で一部の職場に対し日曜日にあらざる二月一日及び二日をそれぞれ公休日とする旨の指定をしていることは疏明を得たものと認むべきであるけれども、まだこれ丈けでは特定の四週間を通じ何れの日曜日を除外して何れの四日を休日と指定したかを認めるを得ず、特に右の如き指定があつた事実に付ては債務者提出の全疏明方法によるもその疏明を得ないものと認める。会社に於ける給与は前月の二十一日からその月の二十日までを計算期間とし、その月の二十八日にその支払をなすべきことは当事者間に争ない事実であるから組合員は前記一月十六日以降二月二十日までの休業した各日曜日の給与はその支給を受くべき権利あるものである。

(三)、昭和二十四年二月二十一日から同年三月二十日迄の賃金計算期間中債務者各従業員が正当な業務を提供した場合には支払わねばならない賃金の約六割一分に相当する額の金員を事実上支払つていないことは当事者間に争のないところである。この事実に付いて債務者は従業員が右の期間中争議行為として前述の様な日曜日一斉休業の波状的な二十四時間罷業を繰返し且窯の修理等に関し怠業する等の行為に出でて正常な労務の供給をしなかつたが為め工場の生産実績が著しく低下したことに基くもので、全く従業員の責に帰すべき事由に因るのでこれに対しては債務者は労働力供給の対価である賃金の全部の支払を拒絶し得るのであるが、色々な事情を考慮し従業員の利益をも慮つて生産実績に応じた三割九分に相当する額を好意的に支払つたものであると主張し、証人竹内茂の証言によれば債務者の西多摩工場に於ける右期間中の生産予定の数量が概算一万二千五百屯で、設備資材の関係からすれば右予定生産量は略之を実現し得らるべきものであつたが、事実の生産量は約其の三割九分に過ぎなかつた事実は疏明せられたものと認める。

而して右期間中も従業員が各日曜日に休業していることは当事者間に争のないところであるが、右日曜日休業が従業員の罷業に基くものであることの疏明のないことは前述せるところで同様であり、且右期間中従業員が債務者主張の様に怠業したこと、前記生産量の低下が怠業に基因するものであることについては債務者の全疏明方法によるもその疏明を得ないものと認める。然らば債務者は右期間中の従業員の給与をその争議行為に因つて労務供給のなかつた場合であるとしてその支払を拒み得ないものと謂わざるを得ない。

(四)、組合の業務専従者野中哲雄外三名に対する昭和二十四年三月分の給与に付いて債務者がその支払をしていないことは当事者間に争のないところである。成立に争のない乙第一号証によれば前記労働協約中には債務者は専従者に対し基本給その他一切の給与其の他について不利益な取扱をしない旨を定めていることが疏明せられたものと認める。従て右協約が効力を有する期間内に債務者は専従者に対しても他の組合員と同様の給与を支払わなければならぬものと謂うべきである。

債務者は此の点に関し組合が専従者の給与を使用者より支給を受けるが如き協約は、労働組合法第二条第二号に違反して無効なものであるから労働次官通牒のあつたのを契機として、昭和二十四年三月分からの支給を廃止したものであると主張し、成立に争のない乙第二十乃至第二十二号証によれば昭和二十四年二月二日附を以て債務者主張の様な労働組合資格審査基準に関する労働次官通牒のあつたこと、同月二十三日総司令部渉外局から労働省に対し及び同年三月三日福岡県労働部長から管内各労政事務所長に対し、夫々従来専従者が使用者から給与の支給を受けている組合は一定期間内にその給与を廃止する様指令又は通達のあつたことは疏明せられたと認める。而して是等の事実と労働組合法第二条の規定の趣旨とを照し合せて考えると、右は斯くの如き事実のある組合は自主的健全な労働組合と云うを得ないので、我国の現時の社会情勢に鑑み一定期間の猶予を置き、その間に組合は使用者に対し自発的に斯る給与の支給を辞退するか又は労資双方の協定に依つて斯る給与を廃止すべきことを指令し又は勧告するにあつて相当と認められる期間を経過するも依然として斯る給与を受くることを廃止しない組合は労働組合法に準拠する労働組合たる資格を否認せられ、団体交渉権、労働協約締結権、争議権等法律によつて認容せられ保障せられている一切の権利も亦之を保有し得なくなると云う趣旨であつて、前記法条は直に斯る協約自体を無効とするものではないと解するのを相当とする。而して組合は本件仮処分訴訟に於てその主体となつて専従者に対する会社から支払のなかつた三月分の給与の支払を請求しているから、未だ自発的に専従者の給与の支給を辞退していないこと。成立に争なき甲第十六号証によれば昭和二十四年三月三十日会社から一方的に同年三月分の専従者に対する給与を廃止する旨の申入があつたことは疏明せられたものと認められるが、組合がその申入を承諾せず労資間に協定が出来ていないことは本件主張自体からこれを認定し得られるところである。従つて協約による法律関係が効力を有する期間内である昭和二十四年三月分の専従者の給与は専従者に於てこれを請求し得べきものと認める。

(五)、よつて組合員が会社から支給を受けなかつた昭和二十四年一月乃至三月分の給与額について按するに、債権者組合代表者野中哲雄本人の第二回訊問の際の供述並びに右供述により真正に成立したものと疏明された甲第二十五号証によればその額は債権者主張の通りであることが疏明されたものと認める。

別働組合は使用者に対し組合を構成する組合員の為にその労動条件等に関して団体交渉を為し、之に基いて労働協約を締結する権利を有するものであつて、協約が為された以上は使用者が各組合員に対し協約条項に定むる義務を履行すべきことを要求し得るものであることは当然であつて、かかる権能が認められる以上使用者にその不履行又は違反のある場合にはその履行並びに違反行為の除去に必要な行為不行為を訴求する権利を有するものと解すべきである。債権者は債務者会社がその従業員たる組合員に対して負担する前記労働協約に基いて具体的に発生した賃金債務の履行を訴求することを前提として右請求権保全の為仮の地位を定めることを目的とする本件仮処分の申請をするものであることは明かであるので債権者にはかかる適格あるものと解すべきである。

(六)、次に本件仮処分を必要とする事情については前記の如く債権者組合員は孰れも債務者会社の従業員であり、他に特別の事情のあることの疏明されない本件に於ては専ら会社から受ける給与によりその生計を維持するものと認むべく、前述の如く昭和二十四年一、二月分の給与の一部と同年三月分の給与の大部分の支払を受けて居ないことは現在の社会並びに経済状勢に照しその生活を著しく脅かすものがあることを認め得られ、且右急迫せる事態は本案訴訟により判決を得る迄之を遷延することを許されない情況にあり、速かに何等かの救済を与える必要に差迫つて居ることは容易に之を観取し得るところである。これが為には債務者会社から別紙第一目録記載の富增吉五郎外五百四十九名の従業員に対しその最低生活を維持するのに必要な限度に於て前記不払給与額と前記認定の基礎となつた諸事情を考慮して相当と認める同目録中各名下記載の金員を夫々この判決が債務者に送達された日の翌日から五日内に仮に支払わせるのを相当と認める。

七、尚債務者は、

(イ)、本件仮処分の対象は昭和二十四年一月十六日から同年三月二十日迄の限定された期間内に既に履行期の到来した具体的な金銭債権であり、かくの如きは民事訴訟法第七百六十条に所謂継続する債権関係とは言うことができない旨主張し、債権者が本件仮処分によつて執行を保全せんとする権利関係が具体的な金銭債権であり右権利関係が一回の実現を以て満足を得て消滅すべき性質のものであることに債務者所論の通りである。然しながら前記の如くその権利関係の当事者たる債務者会社と、その従業員との間に該権利関係の存否に関して争があり債務者はその任意の支払を拒否しその不払のために従業員が生活を脅かされるという急迫した状態が継続することは是亦前記の如くであつて、かかる継続した状態の下に於ては請求権が一回の実現を以て満足を得べきものであろうという一事を以て仮の地位を定める仮処分はこれを否定し得べきものではないと解する。従つてこの点に関する債務者の主張はこれを採用し得ない。

(ロ)、尚本件仮処分により保全される権利は金銭債権に過ぎず金銭的補償により目的を達し得べき特別事情あるを以て債務者に対してその執行を免れるため供託すべき金額を定めらるべきであると主張し、本件に於ける保全せらるべき請求権が右債務者主張の如きものであることは前段説明の通りである。然しながら本件申請の主張とするところは前述の如く右権利関係の存否に関して争があり、債務者に於て支払を拒絶している結果権利者は或は後日の本案訴訟に於て勝訴の確定判決を得ることによりその権利関係の実現満足を得ることがあつたとしても、その実現迄には尚相当の日時を要し、その間を現状のままに放置すれば権利者はその生計を維持し得ざる窮境に陥り後日の権利実現は結局何等実質なき形骸を止むるに過ぎざる結果となり終るべきものとであるから、その差迫つた現状を打開し実質と形式とを兼ね備える権利関係を確立するため必要な限度に於て権利者に争のある権利の仮の実現を許して、その一時的満足を得しめるための仮の地位を定めることに存するのである。従つて本件の如き場合にあつては現状の維持を必要とするのはでなく却つて現状の打破変更を必要とするものであるが故に、保全せらるべき請求権が金銭債権であるとの故を以て直に特別事情あるものとして債務者に解放金額を供託せしめて仮処分の執行を免れしめ、給与の支払なき現状を変更せしめないこととするのはその性質上適当でないものと認める。従つてこの点に関する主張も亦採用し得ない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を通用して主文の通り判決する。

別紙目録省略

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